代替医療解剖

鍼はプラセボにすぎない④ ~では、マッサージは?~

今回のシリーズで、「鍼はプラセボにすぎない」として、
鍼治療には中国理論が主張する広範囲な治療効果は無く、
一部の「痛み」に効果が出るのはプラセボ効果の比率が高いだろうと言ってきました。
(例えば、信頼性の高い臨床試験では、膝の骨関節症に対し、鍼の有効性は示されない)

鍼灸師だけではなく、鍼治療を受けている方、鍼が効いた経験がある方にとっても、
聞きやすい話ではなかったと思います。

このシリーズの最終回では、私の仕事について、
「では、マッサージはどうなのか?」を考えます。

鍼を打てない「ほぐし屋」が、「鍼は効かない」「鍼が効くのは思い込み」と言っただけでは、
一方的に鍼灸師を批判しただけみたいですからね (´・ω・`;)

代替医療解剖

今回、参考にした『代替医療解剖』という本、
私はとくに「鍼」に関しての部分を取り上げましたが、
この本の中では、「鍼」以外の代替医療についても取り上げられています。
他に、大きく取り上げられているものに、カイロプラクティックがあります。
鍼と同じ様に、科学的根拠の有無、「効果のある・なし」を評価した時に、

カイロプラクティックには、
腰痛に効果があるという多少の科学的根拠があるが、脳卒中を起こし死亡する等の高いリスクがある。
腰痛以外の様々な「病気」に対しては、プラセボ以上の効果は無い。
と結論しています。

カイロプラクターの理論で言う、
背骨を矯正すれば、(内臓系を含む)様々な病気を治せるという主張には、
科学的根拠は無いそうです。

カイロプラクティック

では、「マッサージ療法」はどう評価されているか。

ここで言う「マッサージ」とは、
日本の国家資格の「マッサージ師」の定義ではなく、
世界中で、医療そのものと同じくらい長い歴史を持ち、さまざまな技法があるもの。
皆さんが、身内に受けるものも、温泉や銭湯で受けるものも、接骨院で受けるものも、ボディケアも、
すべて「マッサージ」と呼ぶときの意味での、マッサージです。

「マッサージ療法の多くは、解剖学的知識に立脚している」

先ず、マッサージ療法は、「とんでも理論」ではないのです。

技法は本当にたくさんありますが、例えば、
スウェーデン式:筋肉組織をもみほぐす
筋膜リリース:筋膜と結合組織の緊張をゆるめる方法
スポーツマッサージ:運動選手の必要に合わせた筋肉に対するマッサージ

等々がありますが、ひとつの「型」に縛られることよりも、
「解剖学」や様々な勉強をし、自身でも体験し、取り入れ、研鑽することが大事。
と、私は思っています。

解剖学の教科書

「マッサージが一部の筋骨格系の症状、とくに腰痛や、不安、憂鬱、便秘に
有効であることについては、有望そうな科学的根拠が得られている。
局所的な血流を増やし、脳のエンドルフィンを放出することによって効果が得られるのかもしれない。
有害な影響が出ることはまずない。」

「マッサージは一部の病気についてはおそらく効果があり、
ほとんどすべての患者で心身を健やかにする効果がありそうである。」

リラクセーション
「マッサージ等を受ければ、とてもリラックスできる。
リラックス反応とは、心身を緊張緩和させるような自律神経の反応の、ひとつのパターンである。
リラクセーション療法は、さまざまな疾患を持つ人に有益である。」

とのことです。
「とんでも理論」の代替医療にとことん厳しく、
科学的根拠を徹底的に検証している『代替医療解剖』ですが、
マッサージ療法に関しては、概ね肯定的です。

これは、当然といえば当然ではないでしょうか?

筋肉を直接、ほぐす。
筋肉や筋膜を、ゆるめる。
これは、イメージのしやすい「実の効果」であって、「よくわからない理論」ではないでしょう。
血行が良くなったり、体がポカポカ温かくなるのも実感できるでしょう。
「気」や「経絡」や「エネルギー」ではなくて、物理的な効果だからです。

そして、筋肉の緊張や、血流不足が、ある種の「痛み」の要因であることは明らかです。

筋筋膜性疼痛症候群
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%8B%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4

肩こり
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%A9%E3%81%93%E3%82%8A

腰痛
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%B0%E7%97%9B

ちなみに、エンドルフィンは「脳内麻薬」とも呼ばれる、鎮痛効果もある神経伝達物質です。

鳴子温泉

何よりもはっきりしている事は、
マッサージは心身を健やかにし、リラックス効果がある。
自律神経に作用し、心身を緊張緩和させる、という事です。

世界中で、家族内でもセラピストによっても、行われていて、
「マッサージは気持ちいい」ということは、ほとんど誰でも知っていることです。
鍼やカイロプラクティックの様な「独特の理論」でも「不思議な効果」でもないのです。

以前、私は

温泉・入浴とマッサージは効果が似ている!?
http://tanagokoro.pupu.jp/?p=795

という投稿をしました。
私は、マッサージの持つ確実で一番の「実の効果」は、
「気持ち良さ」「リラックス」「血流促進」だと思っています。

なんでもかんでも「治すこと」を大袈裟には言いません。

しかし、
気持ち良さが自律神経に作用し、リラックスさせて筋肉がゆるみ、血流も良くなる。
筋肉の緊張や、血流や酸素が不足する事で起こる「痛み」があるので、効果を発揮することが多い。
少なくとも、自然治癒力を高める手助けにはなるし、心と体に良いものであることには自信がある。
というスタンスで仕事をさせていただいています。
・・・ですので、「治せなければ意味がない」「痛みに耐えてもらっても治す」「医者より治せる」とは、
まったく思っていないのです。

酒井施術フル

私は柔道整復師の国家資格者であり、以前は接骨院でも仕事をしていました。
その中で、自問自答をし、葛藤していました。

医者でもなく、画像診断もできず、薬を処方できず、手術もできない、そういう立場の自分が、
半・医療(代替医療)に関わっていて、できることは何なのか……?

「医者に治せないものを治せるようなことがあるか」
「何が治せて、何は治せないか」

そして、「なぜ、患者は代替医療を求めるのか?」

患者が、「痛みがなくなった」「治してもらった」と喜んでいても、
それは本当は、自然治癒かもしれないし、プラセボ効果かもしれないのだ。
接骨院等に来る患者には、
「医者に行ったが、あまり話を聞いてもらえなかった」「ろくに触れてもくれなかった」
という不満があり、
「何か目新しい治療法で、劇的に改善するかもしれない!」という淡い期待をしており、
その事が、代替医療にプラセボ効果を発生させている。

・・・・・・と、したら。
(あなたがもし、一般医療・西洋医療に不満のある患者だとして、
鍼灸師の「先生」から教えてもらった「陰陽五行論」が心に響いたとして、
それが強力なプラセボ効果を発揮することはあるかもしれない。
しかし、その事と、「中国医学の理論は正しかった」事とは結びつかないことを理解してください)

自分は、技術や理にかなったことで患者を治してはいないのかもしれない…と思ったこともあります。

しかし、やはりマッサージには痛みを軽減する効果がありそうな手応えがあり、
何よりも、患者が一番求めているものは「手で触れること」「一生懸命にマッサージすること」
だと感じてきました。

勉強したり、自分の考えを整理するうちに出した答えは、
すべてとは言えないが、ある種の痛みの原因は「筋肉の緊張」や「血流不足」であるから、
マッサージには、痛みを軽減させる可能性が大いにあること、
「矯正」や「カイロ」の様な「派手な技」で「治す」というよりも、
気持ち良さでリラックスさせ、副交感神経を優位にさせれば、
自律神経由来の症状や不定愁訴、ストレス由来の症状にも効果があること、
「その場で治す」というパフォーマンスはできなくても、「気持ち良く受けるマッサージ」が心身の健康に役立つことだけは確実なこと、
そして、本当にマッサージで効果を出したいのなら、ある程度の時間をかけるマッサージになるということです。

私にできる、患者に嘘をつかない、理屈もちゃんと通る治療は、
「気持ち良いマッサージを、一生懸命に、時間をかけてすること」で、
手っ取り早く治せるような「裏技」などないということです。
自由診療で「(基本的に)クイックではない」マッサージをしているのは、そういう信念があるからです。

手のひらマッサージ

とある鍼灸師に、私のマッサージを観察されたことがあります。

私の考えでは、患者を痛がらせるような「荒業」は必要ない代わりに、
先ず何よりも、気持ち良さや満足度が大事。
そして、例えば「肩こり」の場合、肩を指圧するだけでは肩の筋肉はゆるまない。
肩と繋がる筋肉、連鎖する筋肉を、あらゆる角度からゆるめなければいけない。
そうなると、「肩こり」のマッサージには、腕を一本ずつ手のひらや指先まで丹念にマッサージする必要がある。

それを見た鍼灸師には、こう言われました。
「腕を左右に分けて、そこまで時間をかけていたら、時間がかかりすぎる」

私は、上の発言は治療家の本音であり、様々な事を示唆していると思うのです。
接骨院でも働いたのでわかりますが、現場で最重視されるのは、「回転率」です。
ひとりの患者に時間をかけすぎると儲かりません。
そして、複数の患者を同時進行で治療するためには、電気治療や鍼や灸は都合が良いのです。
ある患者に電気や鍼や灸をしている間に、別の患者に手技をする。
手技だけは、どうしても治療家の「体が取られる」ので、「放置できる治療メニュー」は回転率にとって必要なのです。

プラセボ効果の威力は、馬鹿になりません。
むしろ、治療家はプラセボを上手に使うべきです。
しかし、患者に嘘をついたり、楽をするために使うことは、私にはできない。
鍼の理論のように、「ピンポイントの経穴」で治すことや、
整体やカイロの理論のように、「矯正して」治すことには、科学的根拠はありません。
「非科学的な理論」「とんでも理論」を用いて、たまたま患者がプラセボにかかれば、
患者よりも、むしろ治療家にとって良い事にはならないと思うのです。

「15分のマッサージじゃ効果が出せないから」→電気、鍼、矯正
「マッサージに体を取られると、回転率が落ちるから」→電気、鍼、矯正
「マッサージの技術が低いから」→電気、鍼、矯正

この様にして、たまたま患者にプラセボで効いてしまう。
ひとりの患者に対して、電気もマッサージも鍼もやって、湿布を渡して帰したけれど、
結局、効果を出したのが何なのか、治療家もわかっていない。
それでも患者は通ってくれるし、通院させているうちに自然治癒していく。

これに甘んじていては、マッサージの技術は向上しないと思うのです。
臨床試験の結果を見る限り、「マッサージでは不可能だが鍼では治療可能」なことなどありません。
鍼も打てる治療家、矯正が売りの治療家は、
マッサージを過小評価しており(実際には患者にとってうれしいのは「手で触れる治療」なのに)、
自分のマッサージ技術や体力のなさを棚に上げて、「マッサージでは治らない、治したいなら鍼で。(矯正で。)」
と言います。そして、患者側も、「マッサージは気持ちいいだけでしょ?治るのは鍼とか矯正でしょ?」
と思いがちです。
しかし、真実は、そんな都合の良い(効率の良い)治療は無いのです。
どうか、上手なマッサージを受けてください。
薬に頼らない場合、もっとも「実の効果」があるのは「気持ち良く受けるマッサージ」です。

代替医療の治療家にできる、医者にできないこととは、
一人一人の患者に時間をじっくりかけることだと、私は思います。
そして、時間をかけた丁寧なマッサージには、筋肉をゆるめ血流を促す「実の効果」があります。
鍼のついでに施すマッサージや、矯正の前準備に施すマッサージや、おまけの意味合いの強いマッサージ、
ではなくて、「マッサージが主の目的になるマッサージ」「マッサージ専門だから出せる効果」
そのようなマッサージを目標にしています。

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